籐で編まれた蓋付きの、アジアンテイストな円い形の小物入れ。
両手に乗る大きさのそれの中に布を敷いて、個別包装されたお菓子を載せ。
蓋をしてリボンを掛け、花の飾りで終わりを留める。
明日はホワイトデー。彼女がバイトに入っていてくれるといいのだが    …。







笑顔と無糖の珈琲と -vol.11-








いらっしゃいませ。との元気な声に迎えられながらアッシュは店へと足を踏み入れる。
彼女が今日、シフトに入っていてくれた事に僅かに安堵の息を吐きながら。

「こんにちは、アッシュさん! 今日お会いできてよかったです」

視線が合うとすぐにそう声を掛けられて、アッシュは彼女がいるレジへと近付く。

「今日はホワイトデーだろ? お返しを……」

持ってきたのだ。と続けようとしたアッシュの言葉は彼女によってばっさり遮られた。

「そうなんです、お返しをお渡ししたくて待ってました」

ちょっと待ってて下さい。と彼女はバックヤードへと行ってしまう。
何やらバレンタインデーの時も同じ事をしたようなと思いつつ、アッシュも移動して。
いつもの缶珈琲を手にすると再びレジへと戻って来た。

「あ、今日もなんですね」
「あぁ。この後もまだ図書館で調べ物があってな」
「そうなんですね、大学は勉強も大変ですよね。がんばってください」

いつものようにお金を渡し、テープをはってもらい買い物終了。
だが、今日ここに来たのはその為だけではない。
彼女にチョコレートのお返しを持ってきたのだから渡さないと。

、あのな……」
「遅い時間まで残られるなら丁度よかったかな……?」
「は?」

何故、こういつも言葉を遮られるのだろうか。
これが双子の弟や、切っても切りきれない腐れ縁なアイツなら殴ってやるのに。
彼女相手だとその声が聞えるなら遮られようが構わないとさえ思ってしまう。

「お返しを何にしようか悩んだので……きんぴらごぼうにしたんです」
「……は?」

お返しとは恐らく、バレンタインデーに渡した鉢植えに対してだろうが。
彼女が差し出したのは、恐らく金平牛蒡が入っていると思われる包み。
それなりの大きさがある弁当箱かタッパーが包まれていると思われる。
だが、この中身全てが金平牛蒡なのだろうか。

「これ全部が、か……?」
「いえ!それは流石にあんまりですし、アッシュさんに悪いですし」

それで苦肉の策だったんですけど、お弁当を作ってみました。
声が引き攣ったのに気付いたのだろう。彼女は両手を振りつつ慌てて言葉を紡ぐ。

「なので、今日お会いできなかったら本当にどうしようかと思っていたんです」
「あぁありがとう……」

だが何故お返しが金平牛蒡になったのだろうか。
こう、普通お返しといって思い浮かべるのは菓子か、雑貨類や日用品。
もしくは、同じように鉢植えだと思うのだが。

「何故、金平牛蒡を……?」

疑問をそのまま口にすれば、実は一人ではお返しを決めれなくて。と彼女ははにかむ。

「人に相談したら、ごぼうの花がいいってアドバイスをもらったので」

でもごぼうの花は売ってなかったので……。かと言ってごぼうそのままってもの……。
そう言って照れている姿は可愛かったのだが、何故そのチョイスなのか。
どうして金平牛蒡なのかと聞いたのだが、返って来たのは牛蒡の花について。
アッシュは照れてる彼女を見ながら暫し考える。
バレンタインデーに渡したのは小さな蕾の付いた小さな鉢植え。
恐らく彼女はそのお返しに同じように花を用意しようとしたのだろう。
そこで思い浮かんだのが、牛蒡の花だったという事だろう。

「牛蒡の花……」

だが、確か牛蒡の花の花言葉は    …。

「花言葉が 『 人格者 』 らしいんです。アッシュさんにぴったりだと思って」
「……そうか?」
「相談した人……兄のような幼馴染なんですけど、幼馴染が教えてくれたんです」
「幼馴染……」

成る程。と思う。兄のようという事はその幼馴染は男。ついでに彼女より年上。
そして、お返しにと牛蒡の花を渡すように勧めるくらいだ。
ちゃんと牛蒡の花の ” 他の ” 花言葉を知っているのだろう。

私に近付かないで。私に触れないで。虐めないで。

何かの本に書いてあったのが確かなら、そんな花言葉があったはずだ。
それらを彼女に教えずに、まともなものだけを教えて渡すように指示した。
恐らく、その人物は彼女に対し自分と同等の想いを抱いているのだろう。
牛蒡の花を渡す事により彼女に嫌われているのだと思わせようとしたに違いない。
もしかして以前大学の構内で見た彼女と親しそうにしていたあの男だろうか。
その事に苛ついたものの、それを彼女にぶつけるわけにはいかない。
アッシュは自身に冷静であれと言い聞かせ、当たり障りのない言葉を発する。

「仲がいいんだな」
「はい! 今度、お菓子を作ってもらうんです」
「お菓子を?」
「ごぼうの花を渡したら作ってくれるって……あ、いえ、その、あの……っ!」

あの、だからごぼうにしたわけじゃないですよ? ほっ本当です!
きょろきょろと落ち着きなく瞳を泳がす彼女を見て笑いがこみ上げる。
どれだけ正直なんだ。これではお菓子に釣られましたと言っているようなものだ。

「作ってもらえるといいな」
「はいっ!あ……す、すみませんっ」
「気にするな。俺に悪いと思ったから弁当って形にしたんだろ?」
「そ、そうなんですが……でも、やっぱりごめんなさい……」

言われた通り牛蒡のまま渡す事も出来たろうに。
そのまま渡さなかったのは彼女の優しさで思いやりだ。

「ありがとう。今日は調べ物で遅くなりそうだったからありがたく頂くことにする」
「ありがとうございます。お弁当箱は都合のいいときにでも返していただければ……」
「あぁわかっている。それとこれは俺からのお返しだ」

彼女から弁当を受け取り、代わりに持っていた紙袋を差し出して。

と違って、俺のは市販品だがな」
「わざわざありがとうございます!!」

頬を染め嬉しそうに受け取ってくれるその姿に笑みが浮かぶ。

「じゃぁ……弁当ありがとう」
「はい! こちらこそありがとうございましたっ!」

いつもの無糖の缶珈琲と彼女からの弁当を持って店を出た。



気付いてくれればいいと思う。そして使ってくれれば嬉しい。
籐で編まれた小物入れも、ハンカチも、リボンに、花の小さなコサージュも。
でも気付かれなくても構わない。チョコレートのお礼はお菓子に込めたから。
返す菓子の種類で意味が違ってくるなんて知らなかった。
変に意味深に捉えられるのも嫌だから、チョコにクッキーにキャンディー。
可愛い形で個別包装になったそれらを数個ずつ入れておいた。
どうか来年は。はっきりとした想いを込めた物が交換出来るように願う    …。